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ねぎとろ丼

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一時間で咲夜×妖夢なのを


   『一時間で咲夜×妖夢なのを』

 夏の暑い夜。蒸し暑い夜。蟲達の声がうるさい夜。
 私十六夜咲夜は暑さで寝付けずにいた。
 こういうとき冷たい幽霊でも抱いて寝られたら良いだろう、と思うがそういうわけにはいかない。
 愛しい愛しい、魂魄妖夢の半霊が冷たければ何の問題もないのに。
 とりあえず水分を補給するために自室を抜けて台所へ。

 普段ならば夜は私の主人であるレミリアお嬢様のお付を勤めさせていただく。
 お嬢様のお出かけに追随し、宴会や弾幕ごっこのお供をさせていただくことが多い。
 だが今日は珍しいことに、お嬢様が親友のパチュリー様を連れてお出かけになったのだ。
 私も、と申し上げたのだが二人っきりが良いと仰ったのだ。
 今思えばあれはデートだったのだろう。だから私を置いて行ったのだ。
 その私はというと、冥界の白玉楼に住む半人半霊の妖夢に一途な想いを馳せている。

 台所に着いて水分補給。
 小腹が空いているのでクッキーでもと思うが、また歯磨きしなければならなくなるので思いとどまった。
 地味な柄の寝間着の襟が汗臭い。寝汗でシーツも汗の臭いがついてしまっているのだろう。
 ベッドに戻って寝転がるも、なかなか寝付けない。
 妖夢と一緒にお酒を呑むという妄想をしながら眠ってしまうのを待ってみるが、眠気はやって来なかった。
 寝間着のボタンを外して服をはだけさせてみるが涼しくもならない。
 窓を開ければ蟲が入るので、少ししか開けておけない。
 こういうとき外の世界にあるという冷房器具があれば快適なのだろう、と考えても涼しくはならない。

 と、突然ドアをノックされた。正確に言うと、そんな気がした。
 とても小さい音のノックだったからだ。もしかするとノックではなく、どこかの部屋から聞こえてきた物音かもしれないと思って。
 もう一度ノックされた音がする。今度は確信した。誰かが私の部屋を訪ねてきたのだ。
 こんな夜更けに一体誰だろう? お嬢様が急用で私を呼び出しに来られたのだろうか?
 いや、その可能性は薄いと思う。お嬢様が急用のときはノックせず入ってこられるからだ。
 では誰なのだろう? 美鈴か? だとしても私の部屋に来るほどの用事があると思えない。
 再度ノックされた。いい加減推理するのは辞めてドアを開けてあげよう。
 するとどうだろう。扉の向こうに立っていたのは憧れの人、妖夢だった。
「妖夢っ!」
「しーっ! 大きな声出したら館の人が起きちゃう」
「あ、それもそうね……まあ、とりあえず入って」
「お邪魔するわね」
 まさに会いたい人がやってきた。これは夢なのだろうか。
 いや、夢じゃないはずだ。彼女の髪の匂いは間違いなく本物だろうから。
「一体どうしたの? こんな時間に」
「何か、急に咲夜に呼び出された様な気がして……居ても立ってもいられなくなって抜け出してきたの」
「冥界からここまで来てくれた、ていうの?」
「ええ、まあ……」
 何と言う幸運。私は悪魔信仰している身分だが、このときばかりは神様に感謝したくなった。
「こんなにも暑い夜だから、本気で寝られなくって」
「眠れないって理由だけでここまで来てくれたなんて、私本当に嬉いわ」
 半袖のブラウス、緑色のベストとスカート。いつもの黒色カチューシャに胸元にも黒色リボン。
 夏だからか、靴下の丈は短い。その分長いスカートからちらちら見える脚が妙に色っぽかった。
 妖夢は刀を鞘ごと抜いて床に置く。彼女のもう半分である半霊が私の側までやってきた。
「咲夜は、私のこと好き?」
「え?」
 突然何を言うのだろう。予想だにしなかった彼女の発言に頭は混乱してしまった。
 でもすぐに落ち着いた。頭の中で何度も繰り返した妄想を思い出す。
 そう、彼女に告白するというシミュレーションを。
「勿論、大好きよ」
 わざと間を置いてから彼女に返事した。彼女は目を潤ませた後、俯いた。
 妖夢がなぜか笑っている。こっちも笑いがこみ上げてきた。
 嬉しいから笑顔になっているのだろう。そしてそれは彼女も一緒なのだ。
「妖夢、ベッドへ。横になって」
「……うん」
 幼女の様な、お嬢様の体形に近いサイズの妖夢がベッドに寝転がる。
 仰向けになっている彼女に覆いかぶさり、彼女の髪に触れた。
 自分よりも体の小さな者とこれから愛し合う、と思うと禁忌を犯している気分になる。
「妖夢の髪の毛、ちょっと硬いわ」
「せ、石鹸で洗ってるから……」
 髪の毛に触られて彼女が何ともいえない表情をしている。
「でもそんな妖夢の髪、好きよ」
「そんな……私の髪の毛なんか」
「ううん、好き。大好き」
「咲夜……」
 彼女の頬に手を置いた。暑いせいか、少し汗ばんでいる。
 私は彼女の汗を手の平が水分として吸収しているのでは、と思って一種の変態的な悦びを感じていた。
「妖夢のほっぺた、可愛い」
「や、やめてよ……褒められるほどじゃ……」
「もっと自信を持ってよ。私がこの世で一番好きな人なんだから」
「な、何恥ずかしいこと言ってるのよ」
「あなたが綺麗だということは、私が一番理解してると思うの」
 もう我慢出来ない。妖夢と一つになりたい。暑い夜のことなんてどうでもいい。
 熱くなっても構わない。彼女の体温をもっと感じたい。唇で感じたい。
 私は目を瞑って彼女の顔に近づけて行った。
 この世で最も愛しい彼女の唇を奪いたい。自分のものにしたい。
 あとほんのちょっと体を沈めれば彼女の一番熱いところに届くのだ。

 次に目が覚めたときは妖夢の姿が見えなくなっていた。
 ベッドのシーツが見えている。カーテンに朝日が当たっている。
 今自分はうつ伏せで寝ていた。寝汗はビッショリ。シャツが肌にくっつくほど。
 すぐ近くに居たはずの妖夢は居ない。半霊も居ない。床に置いてあった刀もない。
 嗅覚を働かせる。彼女の匂いはしなかった。彼女が居たという痕跡も感じられない。

 おかしい。私は意識を失う直前まであの愛しい人と居たのではないのか?
 頭を抱えて必死に思い出そうとしていると、部屋の扉が開け放たれた。
 そこには眠たそうな顔をしておられるお嬢様の姿。
「咲夜、寝る前に何か軽食を用意しなさい」
「お嬢様、妖夢を見かけませんでしたか?」
「は? 何を言っているの? 私は食事を作って、と頼んでいるの」
「おかしいんですよ。さっきまで私の部屋に妖夢が居たはずなのに……」
「寝ぼけるのもいい加減にしなさい。私はお腹が減っている、と言っているの」
 さっきまで私が感じていたものは一体何だったんだ? 本当に夢だというのか?
 妖夢の髪の毛の匂いや感触はどういうことだと説明出来るのだ?
 まさか、それさえも私の妄想だといいうのか?
 余りに眠れないから、と私は架空の妖夢を作り出して、その妖夢と乳繰り合っていたというのか?
 ならばこうしていられない。お嬢様の食事? そんなもの美鈴にでも作らせれば良いじゃないですか。
 私はこれから本物の妖夢に会いにいくことにしましたので。
 それではお嬢様、出かけて参ります。ああ、お嬢様。ところでパチュリー様とはどこまで進んだのですか?

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